暇つぶしには丁度いい

女子高生の趣味とか日常

乙女ゲームの悪役令嬢に転生した あるある

第一話 まさかの異世界転生!?

ブランデンブルク侯爵家の長女として生まれた私、ロクサンヌ・フォン・ブランデンブルク社交界デビューを迎える予定の日に、衝撃的な事実に気が付いた。

どうやら私は乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたようなのだ…!

ちょうど前世の私がトラックにひかれて死ぬ年にアニメ化をした大人気乙女ゲーム、「剣と魔法の世界でイケメンたちと恋愛をする」は庶民ながらも魔法の才能に恵まれたストロベリーブロンドヘアの美少女アリシアが魔法学園で個性豊かなイケメンたちと出会い、恋愛をするゲームだ。そして逆境に立ち向かいながらも聖女として光魔法の才能を伸ばすアリシアをあらゆる悪質な方法で虐める今作の悪役の一人が私である。

ゲームでのロクサンヌは最悪な女で、クリストファー王子と結婚するために他の妃候補を脅して婚約者となった。高飛車で異性の前では猫を被る、典型的な嫌な奴である。アニメ化した当時は、アリシアにした嫌がらせが不発となって悔しがるロクサンヌの顔芸のgif画像が出回ったものだ。第三者の視聴者からも嫌われるような女だったのだ。

そんなロクサンヌだが、ゲームのメインヒーローのクリストファー王子のルートでは婚約破棄を宣告されて今までの罪状を並べられ、城の地下牢に放り込まれて一生を過ごすことになる(断罪イベント)。他のルートも似たり寄ったりで、宰相の息子マルクスのルートでは毒を盛られて死に、騎士団長の息子タロウのルートでは戦争に行って死に、生徒会長のジロウのルートでは自費出版本の「王子に溺愛されて困っています」が晒されて社会的に死んでいた。

ロクサンヌの社交界デビューはゲーム開始の一年前、今ならまだ間に合うはず。何とかして破滅フラグを回避しなきゃ!

「お嬢様、何か考え事ですか?今日は社交界デビューだというのにまったくもう…」  と、考え事をしていると専属メイドのナタリーが私に話しかける。ふと、我に返る。初めてつけるコルセットのあまりもの圧迫感に意識が飛び、幸運なことにも前世の記憶が蘇ったわけだが、このままでは怪しまれてしまう。

「いえ、なんでもないのよ。準備を進めて頂戴。それと、いつもありがとう。」

すかさずナタリーに返事をした私は、これからの未来を憂い、深い溜息を吐いた。

 

~幕間~ 専属メイドの目から見て変わったお嬢様

私がロクサンヌお嬢様にお仕えしてから十数年になりますが、最近のお嬢様は人が変わったようであられます。以前は目が合っても何の反応もなく、何かをしても嫌味のひとつやふたつは当たり前でしたのに、最近はあいさつはもちろんのこと、何かにつけて感謝をしてくださるのです。

以前はもともと濃い顔のお嬢様にはあまり似合わない派手なメイクをしていたのですが、最近は私にメイクなどを一任してくださり、お嬢様に似合う薄めのガーリーフェミニンなんとかナチュラル抜け感メイクをするようになって、ますます美しくなりました。

少しドジっぽいところもあるのですが、そんなお嬢様が大好きで誇らしいです♡

 

第n話 王子と接近!?

とりあえず王子ルートを回避するために王子との婚約解消を試みたわけだけれど、前回のお茶会で料理にばかり気に取られていたら「お前、面白いやつだな」って言われて婚約解消をうやむやにされてしまった。このままだと牢屋に放り込まれてしまうし、私みたいな嫌な女との縁を切り離さないってことは何かを企んでいるのかもしれない。

そんなことを考えながら、城の庭園につく。そう、今日は一か月ぶりの定期茶会なのだ。

「お久しぶりですわ、クリストファー王子。」

私は完璧な淑女の礼であいさつをする。今日はシルバーの艶やかな髪をハーフアップにして、レモンイエローのパフスリーブのサマードレスを身にまとい、カリブ海の浅瀬のような瞳が映えるメイクをしてもらっている私は,侯爵令嬢としては満点の姿のはずだ。以前のロクサンヌならあまり似合わない濃いメイクに真っ赤な夜会用ドレスだが、今は違う。見た目に気を付ければ「庶民の女と結婚したいから婚約破棄して牢屋に突っ込みたい女」から「円満に婚約破棄したい女」にランクアップできるだろう。頭の中でほくそ笑む。

「ああ、久しぶりだな。変わりないか?」

「ええ、おかげさまで。」

互いに社交辞令を済ませたところで、私は早速本題に入った。

「ところで、婚約の件なのですがー」

「今日の菓子は城下町で人気の気イチゴのスコーンとレモンケーキだ。」と、王子が口をはさむ。彼の言葉を確かめるため、テーブルに目を向けるとそこには数量限定の巷で話題の菓子が置いてあった。

---今日はまだ時間がある、本題は食後でもいいだろう。

その後、私は何かと邪魔をされ、一時間後には婚約などすっかり忘れて王子と盛り上がっていた。どうやら彼とはかなり気が合うようなのだ。

「君は最近ずいぶん人が変わったな。前よりも親しみやすくなった。それと、クリスでいい。俺も、タロウのように君をロクシーと呼んでいいかい?」

クリストファー王子、いや、クリスは熱っぽい視線で私を見る。婚約破棄などすっかり忘れた私は、思わず

「はい、いいですわよ。クリス様」と返してしまっていた。

 

最終話 いろいろあったけど異世界転生してよかった

同じ転生者だったストロベリーブロンドのアリシアの逆ハー大団円エンド計画を阻止した私は、城の客室のベッドに座って、バルコニーから夜空を見上げた。

ここはゲームの世界だけど、私にとっては紛れもない現実だ。うだうだ悩んでも私らしくないし、数時間後には日が昇って明日が来る。ならば、今を精一杯生きるしかない。何より、私はクリスに伝えなければならないことがあるのだ。そう思いながら、私は寝る準備をした。

すると、扉をノックする音がした。気のせいだと思って無視すると、再び、今度は苛立った様子のノック音がした。

扉を開けると、宰相の息子のマルクスがいた。

マルクス…?こんな夜更けにどうしたの?」

「私は、あなたのことが好きでした。高飛車でいけ好かない派手女だったあなたは、ある日を境に聡明で快活な女性となり、私の心を奪いました。あの日の花火の約束は、一生忘れません。しかし、あなたはクリストファーの婚約者ですし、手が届かないので諦めます」

知らなかった。マルクスが私のことをそんな風に思っていたなんて。

マルクス…」

「ロクサンヌさん、あなたのことが好きでよかった。どうかお幸せに。」

そう言ってマルクスは普段のどこか冷たい顔つきから遠く離れた、優しい顔をして私を数秒見つめたあと、廊下へ消えた。

突然の告白に動揺したものの、なんとか心を落ち着けた私がドアを閉めようとすると。

「まだ開けたままにしてくれ。」

今度は、騎士団長の息子のタロウが来た。

「タロウ…」

「俺は、あんたが好きだった。守る気も失せるような傲慢で意地悪なお嬢様は心優しい美しい女になっていて、気づいたら目が離せなくなっていた。俺だけのお前の愛称をクリストファーに奪われたとき、俺は怒りでどうにかなりそうだった。でもさ、俺は例の呪いのことがあるしクリスは強い男だ。あいつにならお前を譲れるよ。」

知らなかった。タロウが私のことをそんな風に思っていたなんて。タロウは例の呪いを解くために、明日から隣国へ行くそうだ。タロウが一日も早く呪いから解放されますように…

突然の告白と別れの挨拶にまたしても動揺した私が呆けていると、タロウの生き別れの二卵性双生児の生徒会長のジロウが伝書鳩を送ってきた。

『ロクサンヌちゃんへ

 君のことが好きでしたが、僕は明日からタロウと一緒に旅に出ます。彼の呪いの責任は僕にもあるからね。君の自費出版本を読んだ時から僕はずっと君のことが好きでした。でも、君はいつしか痛い夢小説を書く女の子じゃなくなったね。そんな君の成長はうれしくもあり、悲しくもあったよ。クリスと幸せになってね。

               ジロウより』

知らなかった。ジロウが私のことをそんな風に思っていry)

 

気づいたら、クリスが部屋に入っていた。

「ロクシー、やっぱり起きていたんだね。」

クリスの顔を見て、心が揺らぐ。明日言おうと思っていたけれど、このままでは決心が鈍ってしまう。私は決心して、今すぐに言うことにした。

「クリス、私実はあなたのことが----」

「僕に言わせてくれ」

「えっ?」

クリスは私の言葉を遮って、私の目をじっと見つめていった。

「僕は君が、ロクサンヌ・フォン・ブランデンブルクが世界で一番大好きだよ。」

嬉しさがこみあげて、目が熱くなる。私は今、幸せだ。ゲームでも空想でもないこの世界で、光あふれる未来への一歩を彼と、踏み出した。

トラックにひかれて乙女ゲームの悪役令嬢に転生したらシルバーヘアーの美少女で、王子様をはじめとするイケメン達に猛アプローチされて、成績が上がって、一億円当たって、彼氏ができました!

ライバルたちはもう始めているぞ!!今すぐキミも異世界転生しよう!

 

 

という内容の小説を何十個も狂ったように読んでいた時期がちょうど一年前にあったんです。悪役令嬢・異世界転生・異世界召喚モノ読んでたら半日飛ぶ。そしてものすごい後悔する。あれってなんで全部微妙に違うんですかね。オリジナリティ出すなら根本的なところで発揮してくれよ。

私も早く異世界転生したい。